インターネット黎明期、ひとつのゲームのオープニングデモが世界を席巻した。 1991年にメガドライブ向けに移植されたシューティングゲーム『ゼロウイング』の英語版オープニングだ。 プレイヤーが操る宇宙船の基地がキャッツという悪役に占領され、艦長が絶望するシーンに、 あの伝説的なセリフが登場する。

問題のシーン:キャッツの宣告

オリジナルの日本語版では、キャッツはこう言っている。

原文 日本語
「貴様らの基地はすべて、我々がいただいた」
英語版 English
"All your base are belong to us."
ポイント
"All your base" は "All your bases"(複数形)であるべきで、"are belong to" は "belong to" または "are ours" が正しい。文法的に二重に崩壊している。

この文法崩壊した英文は、当時のメガドライブの北米・欧州ローカライズを請け負った 小規模チームによるものとされている。当時はゲームの英語化に際して ネイティブチェックが行われないことも珍しくなかった。

続くセリフも負けていない

キャッツのセリフはこれだけではなかった。

原文 日本語
「我々の計画通りに事は進んでいる」
英語版 English
"You are on the way to destruction."
原文 日本語
「抵抗しても無駄だ」
英語版 English
"You have no chance to survive make your time."
ポイント
"make your time" は完全な意味不明フレーズ。「時間を作れ=覚悟しろ」という 意訳の試みが文法崩壊したものと推測されるが、原文の「抵抗しても無駄だ」とは ほとんど別の意味になっている。

ミームとして世界へ

2001年頃、この英語版オープニングをまとめた動画がFlashアニメとして広まり、 "All your base are belong to us"(略して "AYBABTU")は瞬く間に 初期インターネット文化を代表するミームとなった。 Tシャツ、ステッカー、ニュースサイトへの書き込み……至るところに出現し、 文法が破綻したまま「完全に征服された」状態を指す表現として定着した。

皮肉なことに、翻訳の失敗がゲームの知名度を原作をはるかに超えるレベルまで 押し上げたのである。『ゼロウイング』自体を知らない世代も、 このセリフだけは知っているという現象が今も続いている。

まとめ

誤訳はときに作品に傷をつけるが、ときにそれ自体が文化的財産になる。 "All your base" はその最たる例だ。当時の翻訳者を笑うのは簡単だが、 リソースもネイティブチェックの機会もない環境でローカライズを行っていた 時代背景を忘れてはならない——とは言え、やはり面白いものは面白い。

記事一覧に戻る